留学体験記
講師
吉田 昌弘
MASAHIRO YOSHIDA
留学のきっかけは、2018年 欧州呼吸器学会
私は2019年4月から4年半の間、英国University College Londonに留学しておりました。所属先の呼吸器研究センター(UCL Respiratory)は、1)肺の上皮細胞の癌化と再生、2)肺線維症、3)呼吸器感染症などの研究グループからなり、約20名以上の同僚たちの多様な研究テーマに触れ、常に刺激を受ける日々でした。
私のSupervisorは呼吸器内科医で、ヒト胎児肺オルガノイドの培養方法を確立したMarko Nikolic先生です。留学のきっかけは2018年の欧州呼吸器学会に参加した際に、Marko Nikolic先生に直接お会いしたことです。彼らの研究グループの論文を片手に、研究室に所属したいと直訴したことが印象的であったようで、翌年から受け入れてもらえることが決まりました。タイミングと良縁に恵まれ、また当時の桑野教授にも快く送り出していただき、留学が実現することとなりました。
このように勢いで英国に飛び出した私は、やはり英語で苦労することになりました。多国籍なラボでしたが、自分が最も英語力が乏しいと日々焦り、研究外では英語の勉強に多くの時間を費やしました。一方で研究の基本的な技術に関しては、慈恵医大呼吸器内科の大学院で教えていただいた手法が世界でも通用することが実感でき、ラボメンバーから重宝されることもありました。私の研究テーマは、ヒト肺の再生を目指した、呼吸器上皮細胞の発生、免疫応答などに関する基礎研究でした。未熟児呼吸不全や慢性呼吸器疾患の克服に向けた壮大なプロジェクトに携われることを幸せに感じました。
Marko Nikolic先生と
COVID-19の病態研究がNature誌に掲載
University College Londonは大英博物館から徒歩圏内の、まさにロンドンの中心地に位置しています。大都市での留学生活にはメリット・デメリットありますが、交通網の発達した都心で日本人駐在者も多い環境は、私たち家族にとっては最適でした。何より個人的に幾度も旅行に訪れるほど憧れていた土地で研究生活を送ることができるということが、大きなモチベーションとなっていました。
このように苦労しつつも前向きにスタートした研究生活が大きく転換したのが、2020年3月からの新型コロナウィルスパンデミックによるロックダウンです。英国政府の方針により我々のラボも閉鎖となり、2019年以来従事していた研究テーマは1年半以上休止せざるを得ない状況となりました。そこでMarko Nikolic先生らと呼吸器内科医として何か貢献できないかと模索し、研究室の強みを活かしたCOVID-19の病態研究を行うこととなりました。約1年半かけてCOVID-19患者の臨床検体を収集、解析し、年齢ごとの免疫応答の違いから重症化メカニズムを明らかにしたことで、その成果は2021年末にNature誌にpublishされました。社会的に関心の高い研究テーマにタイムリーに携わることができたこと、そのスピード感を体験できたことはまさに一生の財産となりました。
University College London
Physician scientistとしての道が拓けた4年間
2022年からはポストパンデミックの日常に戻り、この頃から家族での欧州旅行や、プレミアリーグやウィンブルドンの観戦など英国での生活を謳歌することができました。研究面では従来の研究テーマを再開することができ、帰国直前まで最先端の研究に携わることができました。ラボメンバーに恵まれ、唯一無二のかけがえのない経験ができたことに感謝しています。呼吸器内科大学院での4年間、留学先での4年間の研究生活を経て、呼吸器疾患の克服を目指すPhysician scientistとしての道が拓けたように思います。
慈恵医大呼吸器内科は呼吸器疾患の病態解明・治療開発に向けた基礎研究にも強みを持っており、研究指導や留学サポートの体制が整っています。個人的には大学院時代に日々世界に発信する病態解明・治療開発を目指した環境に居たことで、海外への視野も広がりました。研究生活や海外での留学に興味のある先生や学生の方は気軽にご連絡ください!
Tower bridge, London